飛行機

国内線の飛行機に乗るといつも思うのが、たかが一時間ほどのフライトで「ベルト着用のサインが消えるまでは…」「ベルト着用のサインは消えましたが気流が悪くて揺れるので、念のため着用を」「ベルト着用のサインがまた着きました…」とかって、短い搭乗時間の間すーっとアナウンスし続けて、うるさすぎなのではないか、ということ。もうわかってるよ静かにしててよ、といつもうんざりする。墜落して死ぬ場合もあるのを承知の上で航空券を購入して乗ってるお客さんに向かって、ベルトだ安全だという話をそんなにしつこくして、脅し続けるのはいかがなものか、と。
しかし、今回の移動で国内線に乗っているうちに、そうか、これ「プレイ」の一部なんだもんな、大事なことなんだな、と急に理解できた気がした。「短いフライト時間だから別に大丈夫だと思って甘く見てるかもしれないけど、死ぬかもしれないんですよ」と絶え間なく脅し続けることは、つまりは「タナトス」目的のプレイなのだ。
男性は、たとえば「疲れたなー」など、個体が死に近づいた際、「子孫を増やさないと、種の保存がやばい!」と本能的に思うよう出来ているらしく、死の危険→エロス志向→欲望 と反応するように生物としてインプットされているらしい。だから、タナトスとエロスを同居とか混同とかさせやすいようだ。その点において、航空機搭乗とは、まさに男性にとっては「墜落したら死ぬかもしれない!」「…と思ったら、そのリスクと引き換えに、冥土の土産のようなかわいい笑顔をキャビンアテンダントが振りまいてくれてる!」という、格好の「スティミュラス・パッケージ」なのだろうと思う。
飛行機の客室とは、そのように極度に「男性向けの空間」なんだなあ、としみじみ思う。女性は、たぶん男性ほど死を恐れてないし、飛行機に乗ってもタナトスもエロスも何も感じず、飛行機に何のファンタジーも抱いていない。だからこそ、あの「スティミュラス・パッケージ」的空間にいると、強烈な疎外感のようなものを感じるんだと思う。少なくともわたしはそう。いいなー、男子、楽しそうで、とちょっと羨ましくもある。すみません、ちょっと偏見かもしれませんが、でも絶対あるでしょうそれは。(文=目黒条