リチャード三世

赤坂ACTシアターで『リチャード三世』を拝見。いのうえひでのりさんが正面きって本格的にシェイクスピア演出に挑む、という舞台で、これがものすごく面白かった。
(注・わたしは別に評論活動をするつもりがないので、これは「劇評」なんかではなく、単なる「感想文」であるとはっきりわかるよう、「面白かった」とかってわざと素朴に書いています)。
今までに日本語英語両方で数多くの『リチャード…』上演を見てきたけれど、今日のが今までで一番面白かった。掛け値なしで面白かった。冒頭から、わたしの人生を決定づけた重要な楽曲のひとつ『Love, Reign o'er Me』がいきなり振ってきて脳天を直撃、その瞬間から目黒on! 最後までずっとon! 睡眠不足だったことなどすっかり忘れ、まばたきする間も惜しんで目を見開いていた。音楽も映像も衣裳も美術も何もかもが素晴らしい。登場人物はみんなモバイル持ってるし(呪いもデジタル化されている!)現代もしくは近未来という感じかなと思わせつつ、一方でファッションは60年代風もしくは80年代のストリート風(ツートーンとか)で、と一見自由な感じだけれど、実はイギリスという一貫性がきちんとある思慮分別に富んだ意匠にすべてがなっていて、とてもクール。視覚的な特徴から先に書いてしまったが、もちろん、何よりも芝居そのものが、いい。すごくいい。キャスト全員がこの芝居で「男を上げた」「女を上げた」と思えた。…しかし、考えてみたら、リチャードってloveならぬ、Hate, reign over me!(憎しみよ、わたしを支配してくれ!)と天に向かって叫んでいるような奴だ。そして、そういう憎悪のパワーというものは、時を越えて人を揺さぶる。だからこそシェイクスピアはタイムレスなのだ。(文=目黒条