浮世アーケード風呂

 毎日ギリギリいっぱいまで一生懸命仕事していますが、ちょっと飛ばしすぎて、ゾンビ地蔵になってきた。書いている登場人物にあまりに凄い運命を背負わせてしまうと、その人の魂が自分の側に侵食してきて、だんだん恐ろしいことになってきます。人によってはこの状況を「お祓いが必要です」とかそういう風に判断するんだろうけど、わたしの場合、そういう宗教的手段は嫌いだし、第一、現時点で彼女(こんどの主人公、女なんです)と完全にさよならしてしまうわけにもいかない。そこで、取り憑いたものを「町でソフトに散らして」きます。
 いちばんいいのは、人がいっぱいいるアーケードの商店街(中野とか武蔵小山とか吉祥寺とかにある、大きな賑やかなところ)。人がいっぱい行き来してて、その熱気がアーケードの屋根の下にムンムンこもっていて、ちょうどお風呂屋さんみたいになっている。その人ごみの中で、ちゃちゃっと「散らして」きます。町の皆さんごめんなさいね。でも、たぶん悪い憑きものを誰か特定個人に押し付けるというような結果にはなってないと思う。空中に放たれ、あのアーケードの天井あたりにもやもやっと散ってくんだと思います。それでたぶん、お風呂屋っぽいあの水蒸気で、浄化されていく(イメージ)。おりしも春分の日だし、目に見えないけど空中にいろんなものが飛び交ってるんだと思いますが、上手にトラフィックすれば恐れるに足らないのでは。(文=目黒条