シルク

 わたしには、ふだんそれほど「メジャー娯楽作」みたいな映画を観に行く志向がない。もし行く場合は、たいてい男優見たさの下心によるものだったりする(ニコラス・ケイジ観に『ナショナル・トレジャー』とか)。実はちょっと前にひそかに見ていた『シルク』も、もちろんマイケル・ピット目当てだったのだけど、映画としてあまりおすすめできない感じだったので、わざとクローズした頃に記述。
 養蚕バブルに沸き立つ19世紀フランスの田舎町から、蚕の卵を求めてはるばる日本まで旅するマイケル・ピットが、ミステリアスな日本の女に一目惚れ…というようなストーリー。「近代ヨーロッパ」の枠組みからエスケープして、「東洋の闇」の中で神秘的エロ感を見出す、という図式をやりたいのはわかるのだけど、日本の山村というのは果たしてデカダンスのトポスとなり得るのでしょうか?? なんか中国の阿片窟みたいなものとイメージごっちゃになってませんか? その他、細部にいろいろと「えっ?」というところがあり、脚本か原作か、たぶんどちらかに問題がありそう。
 でも、個人的には、マイケル・ピットをこんなにたくさん見せてくださった映画に文句を言うつもりはないです。「ヴォイスオーバーの乱用はヘボな映画の常套手段」と言う方もおられますが、いえいえ、マイケルの声がずーっと聞けてわたしは本当に幸せでした。ですが、この映画の彼の役、普通に見たら「単なる最低の男」って感じ…。マイケル、すごく損な役だよこれ?! この映画で得をしてたのは役所広司さんと中谷美紀さんだけ。中谷さんは、フランスにわたった元日本人妻で今は娼館のやり手マダムをやっており、日本語ができるからってマイケル・ピットの日本語恋文の翻訳を頼まれるんだけど、「このわたしを翻訳するだけの道具だと思っているの!」というプライドとマイケルへの嫉妬がガンガンに伝わってくる熱演をされていた。思わず感情移入。
 商材としての「東洋の神秘」っていうのは21世紀になってもいまだ需要があるのか…という脱力感を振り払い、いつかどこかでマイケルに実際に出会うチャンスがあることを信じて(←根拠もないのになぜか確信!思い込みがものすごく強い目黒)、その日のために頑張って生きていこう。(文=目黒条