西の国のプレイボーイ

 今月22日(木)〜24日(土)に上演されるアイルランドドルイド・シアター・カンパニーの招聘公演『西の国のプレイボーイ』(ジョン・M・シング作)の字幕をわたしが担当させていただきます。ちょうど百年前の1907年に初演された爆笑コメディ(!)ですが、百年前の作品とは信じがたいほど時を越えた面白さで、おすすめ。是非観てみてください。http://tif.anj.or.jp/program/druid.html 
 モリエールあたりから脈々と続く喜劇の系譜を受け継いでいるようにも思えるシングは、ワイルドより一世代下という感じの1871年生まれ。ダブリン生まれだけれど、アラン諸島を訪れたのが転機となって、アイルランド国民演劇を、イデオロギーと関係ない世界的な芸術的地位にまで押し上げた劇作家。『西の国のプレイボーイ』初演時には、そのあまりの風刺性の強さに、アイルランド農民をバカにしてんのか、という感じでナショナリスト(日本人の感覚と逆で、アイルランドではナショナリストの方が革新派)が暴動を起こして上演を妨害したそうです。
 それだけ過激に面白く、ある種のラブレー的哄笑に満ちているこの作品、わたしが特に興味深かったのは、これがよそ者の話である点。主人公のプレイボーイ(お調子者、遊び男)は、中世からいるような香具師とか吟遊詩人とか手品師、役者というような流れ者のトリックスター像を原型として持つと思われる。この話を始めると大変長くなってしまうのだけど、要点だけ言うと、こういう人物こそ、狭い「地域社会」「市民社会」に風穴をあけて、生態系?を狂わせ、それゆえ魔女狩りの対象になっていくという、芸術における大テーマのひとつの柱になるものなのだ。
 このいい作品を、そのままストレートな面白さで観ていただくため、字幕もすごく工夫しなきゃとだいぶ頑張った。日本の演劇ファンは、しばしば自分の「テリトリー」の中だけを回遊してて、ヨーロッパ近代の戯曲などは自分には関係なく「外国文学の研究者だけが悦に入って観るようなものだ」というように思いこんでいる場合があるけれど、もしそう思ったとしたら大間違いで、もったいない話。是非こういう作品をお勧めしたいです。わたしはまだ記録映像しか見ていないけれど、ドルイドカンパニーの演出も、これがいいんです、すごく。(文=目黒条