スーザン・ソンタグ

 スーザン・ソンタグが死んだ。71歳だったんだから死んで不思議な年じゃないのだが「スーザン・ソンタグ、なんだか死なないような気がするんですよ」(マルシー宇野千代?)という感じがしていた。それは単なるわたしの希望だったんだろうけど、でもなぜだか、彼女はずーっと存在し続けるように思っていた。ソンタグ、最近はポリティカルな発言が目立ち、特に911への見解がブッシュ政権の逆鱗に触れて批判されたりしていた。だったらヨーロッパのメディアで書けばいい、頑張れスーザン・ソンタグ!って思っていたのに。
 それにしてもがっかりなのは、日本の新聞報道。朝日新聞ソンタグのことを見出しで「コソボ911批評」とか紹介してる。本文でも、彼女が劇作家・演出家だったことになんか一行も触れてない。(他紙はとってないので知らないけど推して知るべし、だろう。)わたしにとってはこの朝日の見出し、「大学教授 唐十郎」とか「CMタレント 大江健三郎」とかいうのと同じぐらい違和感を感じるものなんですが。
 スーザン・ソンタグは、日本では小説家、評論家としてのみ知られているのかもしれないけど、戯曲も書いている。『Alice in Bed』という芝居はものすごく刺激的で鳥肌が立つほど面白かった(わたしは舞台は見てないが、出版された戯曲を読んだ)。自身が演出するのみならず、確か出演までしたことあったような? とにかく、演劇に深く深く関わった人だったのだ。90年代には、確かサラエボでカンパニーを率いて『ゴドーを待ちながら』を上演したのだった。そのレポートを感動して読んだ覚えがある。生きてるだけで精一杯、って思っている人たちにいきなりベケットって何?というわたしの先入観は打ち砕かれた。本当の探求者とはこういう人だと思った。セレブリティになった後も安全・快適な場所に安住せず、常に最前線で戦っていった人、それがスーザン・ソンタグだ。なまじな知識人とは全然ちがう。(文=目黒条