ザ・コケッツ

 イメージフォーラムのレイトショーで『ザ・コケッツ』を見た。昔サンフランシスコにあったヒッピー劇団のドキュメンタリーです。
 コケッツは、カリフラワーとかいう名前のコミューンから発生した前衛劇団で、女装した男性を前面にフィーチャー。といっても、ニューヨークのドラァグクイーンなんかのように洗練されてない、ヒゲ面のまんま女装してるような汚〜い人たちがLSDでいっちゃった状態でラインダンス踊ってるような、かなり無茶苦茶なものだ。1960〜70年代のカウンターカルチャーというのは、とにかく「既成概念への反抗」みたいなことが大事だったわけで、この劇団は「ジェンダーなんか関係ないわ!」というセクシャルレボリューション系の主張を主にしたかったんだと思う。古着の倉庫をひっくり返したようなケバケバしい衣裳を着て、白塗りとかいろんな色塗りとかの顔して満艦飾になったその見た目は、大駱駝鑑っぽくもあるし、花を飾った帽子を被ってドレス着てるリーダーの人は大野一雄のアルヘンチーナにも似てる。とにかくあの時代のアングラや、サイケデリックなファッションや、ヨーロッパの昔ながらの猥雑な田舎芝居や、インドの仮面劇や中国の京劇などのエスニック性や、考え付く限りのありとあらゆる「ド派手」要素をゴッタ煮にした感じ。内容はといえば、歌ありアチャラカありのオカマショーみたいな雰囲気で、演劇っていうよりレビューに近いような。でも、もっと昔のアメリカのアジプロ演劇的な精神はしっかり受け継いでいて、時には政治をコケにして笑い倒したりする「反権力」の主張も忘れてない。
 彼らの芝居はサンフランシスコではかなり受け(ジャニス・ジョプリンとか、アレン・ギンズバーグとか、ラウシェンバーグとか、ありとあらゆる文化人に支持される!)、なんとニューヨーク公演のオファーが来るが、やってみたらN.Y.じゃ大コケ。ニューヨーカーは「演劇」としてクリティカルな目で見ちゃったんだけど、コケッツは所詮サンフランシスコのぬるーい文化の中でマリファナLSDをやりながら笑って見るものだったんだね、ということが判明する。最後のクレジットで、「コケッツを金銭的に支えてくれた財団」の名前がたくさんたくさん出てくるので、へええ、と驚いてしまった。こんな性器丸出しヤク中芝居も「文化」として助成されてたなんて幸せな時代だ。その後、暗黒のレーガン時代が来て、コミューンの人々が福祉で食えてるような日々も終わってしまうのだが…
 一見おバカだが、よく見るとかなり緻密な努力をして作ったことがわかる優秀なドキュメンタリーだった。しかし、ヒッピーの汚なさを見慣れてない若い人が見たら、吐くかも。カウンターカルチャー好きのわたしにとっては、ディヴァイン誕生の元にもなったコケッツが、のちのバッドテイストB級ムービーにも繋がっていく系譜を発見でき、興味深いものだった。(文=目黒条)