バタイユ『空の青み』

 河出文庫のG.バタイユ『空の青み』読了。今まで読んでなかったのが勿体なかった。文庫化によって注意喚起されてよかったです。伊藤守男先生の名訳のおかげで、まるで娯楽小説のごとくスラスラ読めて痛快、もちろん傑作。酒のみっぱなしで絶えず吐き気とともに生きてるちょっと廃人寸前主人公だが、なんか不吉な感じのする変な女が好みで、泥酔のお供にあれこれ侍らせてて、でもそういう女たちとかがめんどくさくなっちゃって「自分の生活から逃れようと」スペイン内戦勃発しているバルセロナに逃げてしまう。でも、そこに女が次々追ってきて…とほとんどコミカルといってもいい設定。でもそこには、ねちっこい「死」への執着がある。たぶん高等遊民である自分という存在そのものへの罪悪感があるらしくて、そのせいか自分が大嫌いらしい主人公は、お酒によって緩慢な自殺をしようとしているのだ。彼にとっては何もかもが厭世のもと。スペイン内戦にも別にアンガージュマンしようとしてない。主人公は政治的変革にも自らの救済にも興味なし!ひたすら自分が死んでほしいと願っている。意外とこれこそが、無神論バタイユの実像だったのかもしれない。戦争の予感すら死への誘惑とごっちゃになってる倒錯野郎という主人公だが、しかしこの世の中の構造と人間のバカさを見据えたニヒリズムは、とても上等。
 この作品が日本で出版されたのは1971年、わたしなんかまだ6歳の頃だ。それなのに全然古びてない伊藤守男先生の翻訳に感動。そしてまたあとがきを読んで、先生の翻訳論、「翻訳なんてほんとは機械がやればいいんだ。わたしの訳など機械が発明されるまでのつなぎ」みたいな、これまたニヒルなお言葉にいろいろ考えてしまったわたしでした。(文=目黒条