ジェリー

 時間があいたので、やっと観てきました『ジェリー』。最初に、タイトルのGERRYっていうのは何?ということだが、俗語辞典によれば「老人、年寄り、老いぼれ(geriatric)のティーンエイジャー俗語」だそう。映画の二人、お互いを「ジジイ」と呼び合い、しくじったとかヘマなことをしたという時にも「ジジイしちゃったよ」と言い…という感じだと思う。
 で、ガス・ヴァン・サント監督のこの実験作なのだが、余計な説明を一切省いて、二人のバックグラウンドなど全然語らずにただただ砂漠を彷徨わせる。映画でのしつこいナレーションが嫌いな身としてはなんともスッキリした気分で、なるほど、余白は観客が埋めていいんだな、じゃあ「ぬりえ」みたいなもので、自ら参加し、あとは自分で勝手にナレーションを入れて完成させればいいんだな、と思い、結構ワクワクした。ゲイカップルが樹海に入って心中してく、という設定でもこの絵はいけるか、とか。…それで最初の40分ぐらいメチャクチャ楽しかった。映像によって、昔暗誦した詩だとか思いもかけないことが頭に浮かんだり。すごく刺激的。そういう意味ではこの映画、舞踏に似た機能をするのかも、と思った(土方巽の時代に、詩人とかの芸術家が舞踏に熱狂したの、あれはたぶん視覚オンリーで言葉なし、という環境の中で、自ら好き勝手な言葉を紡ぎ出せるからだったのでは、とわたしは密かに思っている)。
 わたしは別に映画評論もどきをやるつもりはなくて、私見をダラダラ述べた日記を書いてるだけだということをお断りしておきますが、映画の後半は、自らの勝手なナレーションに引きずられてどんどん逸脱、完全に映像と関係ないことを考え始めてしまった。あの文章の言い回しはこっちの方がよかったな、など仕事のこと考えたりとか。ごめんなさい監督。わたしは言語偏重型の人間だから、四六時中言語でものを考えていて、だからコトバがあんまりない環境に投げ込まれた場合、30〜40分しかもたないのだ。でも「絵でものを考える」タイプの人だったら、この映画の90分だか100分だかぐらいの時間は、映像に夢中のままあっという間に終わるんじゃないかと思う。映像型じゃないわたしは途中で集中力が切れましたが、でも、おかげさまでいろいろ実用的なアイデアがわいて、帰ってからお仕事がはかどりました。(文=目黒条