リッキー

フランソワ・オゾン監督の『リッキー』を試写で拝見。「シングルマザーが恋をしたら、翼のはえた赤ちゃんがやってきた」というような大枠の情報だけだと、いかにも「ほのぼのと可愛い、赤ちゃんムービーかな」などとみんなに誤解されそうですが、そんな甘ったるい作品ではありません。だいたい、今までのオゾン監督の作風からみても「一筋縄ではいかないだろう」ということは、予測できていたし…。
結論から先に言うと、とても怖くて、とても刺激的・芸術的な映画でした。フランス人というのは、賛否両論を巻き起こす「異物感」のあるものを作り上げるのが好きで、またそういうものを大事にする人たちだと思いますが、まさにこの映画もそういう作品。
遺伝子の戦略にしばられているわたしたち人間は、理性で「生殖」をコントロールできそうで実はできない…。その怖さ…死や喪失と隣り合わせの「生命」「誕生」の、それこそ異物感のある感じ…。そういう、人間存在の皮肉な運命を、大局から、美しく悲しく、そしてユーモラスに表現した傑作だと思いました。(個人的な感覚を言えば、わたしはひたすら怖かったです。最初から最後まで、怖くて怖くてたまらなかった…。繁殖していくことって、基本的に「恐怖を感じない鈍感さ」を原則に成り立っているんでしょうけど、一回その怖さを認識すると、無限に怖くなるものだな、と…。)
この映画がわかるかわからないかで、見た人が大人かどうかが分かってしまう、というものかもしれません。(文=目黒条