いろいろな可能性

もうすでに持ってる人が読んだら「今さらワーワー言って…」と失笑ものなのでしょうが、キンドルは、待ち受け画面になるとエミリー・ディキンソンとかラルフ・エリソンとか、ストウ夫人とか、ジェーン・オースティンとか、英米文学の偉人の肖像画がいろいろ出てくるので、待ち受けさえもとても楽しみです。これを見て久々に「読書人」という言葉を思い出しました。英米文学への敬意をきちんと持った読書人がターゲットなんだという、このはっきりした打ち出しが素晴らしいです。古きをたずねて新しいメディアを使うというのもまたよし!と思いました。…ディキンソンの顔なんて実は見たことがなかったから「なるほど意思的な顔立ちだー」と興味深かったし、あとはストウ夫人が「ハリエット」というファーストネームだったことも知らなかった(なんで日本では「…夫人」なんて紹介のされ方をしたのでしょうね?)…等々、とても勉強になります。
でも、紙の本だって負けてはいません! 内田春菊さんの新刊『私たちは繁殖している10』は、なんと表紙カバーに布状の水玉がついていて、ポコポコふわふわしています。つまり、カバーを通じて「手触り」まで楽しめる本!! 以前にブロンズ新社のoさんから「布絵本」をいただいたことがあって、それは絵本の中の動物が布貼りになっているものだったけれど、『…繁殖している』はそういう具象性からは離れた、抽象的な?意味で感触が楽しめるカバーで、これは面白い!と感心しました。電子書籍は「視覚」(と、一部は聴覚)以外の感覚に訴えることはできないのだから、紙の本はこれからは触覚を狙え、ということなのかも。そう考えると、これは最先端です。
触覚以外に可能性があるとしたら、あとはなんだ?「味覚」?…これは衛生上難しそうだけれど、「嗅覚」というのはありか。食べ物の絵をこすると匂いが出る絵本とかは、今までにもありましたが、子供の消しゴムみたいな人工的匂いはもう時代的に敬遠されるような気がするので、これからは天然アロマ本とかそういうのがいいかもしれません。
カバーのことばっかり書いてしまいましたが、『…繁殖している』の素晴らしさは、もちろん第一にその内容! 本当に面白かったので一気に読んでしまいました。おすすめです。(文=目黒条