パリ20区、僕たちのクラス

六月に岩波ホールで公開予定の『パリ20区、僕たちのクラス』を試写で拝見。移民の多い20区の中学を舞台にした、そしてそこに実際に通う子供達が出演する映画で、ドキュメンタリーのようにリアルだが、原作小説のあるフィクション。教師役で主演している作家フランソワ・ペゴドーがその小説を書いた、という完璧なキャスティングだ。
「僕たちのクラス」という邦題の「クラス」とは、学級という意味と、階級という意味の両方を暗示している?とも思えてくるような、富裕な人はあまり通わない雰囲気の公立学校が舞台で、当然、ここで教えることは困難を極める。フランス生まれのフランス育ちで白人、という生徒の割合は非常に少なく、親と先生が面談する際にも親がアフリカ語しか喋れなくて子供が通訳する、というような事態にすぐなる。
教育困難な環境においても、主人公のフランソワ先生は、日本で言う「学級崩壊」のような事態をなんとかしようとして不規則発言を力で封じる、などという手段は取らない。その代わり、生徒一人ひとりの勝手な言い草の深層にある心を知ろうと、一生懸命に対話を繰り返す。原題の『entre les murs』というのは、「塀の中」みたいなムショ的閉鎖状況のことかと最初思ったけれど、実は「規律正しい教育、という建前」と「人間的対話」という二つの壁に挟まれて悩みながらも、なんとか良くしていこうと苦闘する先生、ということなのかもしれない、と途中から思い始めた。
教育のことを描いているようでいながら、実はもっともっと大きな問題(人間の成長、コミュニケーション、多民族の共生など)を扱った、大変に心ゆさぶられる作品。是非多くの人に見ていただきたいです。(文=目黒条