六本木

先日、六本木に行く用事があった。六本木に行くのは「六本木全域」で考えるなら別に久しぶりではないが、飯倉方面に立ち寄るのはものすごく久しぶりだった。普段は行くとしてもテレビ朝日の方とか乃木坂に近い方とかが多く、飯倉の方にはなかなか用がないもので、かなり長いこと(十年近く??)そっちには足を踏み入れてなかった気がする。
レイ・ブラッドベリの短編で、古代にタイムスリップした現代人が、ちょこっと蝶の羽か何か踏んでしまったら、そのせいで生態系?が変わってしまって、現代に戻ったら世界がメチャクチャ・ぐにゃぐにゃになっていて「うわあ〜!」となる、というような話があったけど、六本木の交差点から飯倉方面に歩いていったわたしは、「まさにこれ、ブラッドベリ的状況だ!」と思った(〜何も踏んでないけど)。そのぐらい、すべてが変わっていた。わたしは二十年ぐらい前にその辺りでバイトをしていたのだが(注・堅気の仕事です)、当時あって今もあるものなんて、マクドナルドとガスパニックぐらいしか見当たらない! その他のものがみごとに全部変わってしまっていて、完膚なきまでにメモリー剥奪状態。よろず屋「富屋」さんも、「狸穴そば」ももちろんとっくにない…。というか、たぶん今はもう「狸穴」という地名も通じないだろう!
わたしは「コンテンポラリーの人」なので、「昔ながらの町はいいですねえ」というような嗜好は基本的にあまり持ってないはずなのだが、そんなわたしですら六本木の変貌はあまりに極端すぎると思う。…でもスタバの雰囲気が良かったので、結局は六本木を許すことにした。こうなったらもう、わたしが死ぬまでにあと五セットぐらい総とっかえを繰り返して見せてほしい。(文=目黒条