ビフォア・タッパーウェアー

異様に仕事に熱中してしまったせいで(100%仕事ではなかったかもしれないけれど?八割方)、昨夜は二時間しか寝なかった。健康のために睡眠を取ろうという決意より、自分の中の盛り上がりが勝ってしまった…駄目だ…。
寝不足で薄ぼんやりした、心がふわふわしたような状態で、近所の神社が朝から骨董市をやっている横を通りかかった。外国人がアンティークを渉猟している、その出店の一つにふと目をやると、「マンガのついたアルミのお弁当箱」が並べられていた。ええっ、それ、わたしが子供の頃の懐かしアイテムなんですけど、それも骨董品? …骨董品なんだろうなあ。別にショックを受けるには及ばない、わたしの世代はもうとっくに「歴史の語り部」なのでしょうよ、としみじみ思う。わたしの幼稚園の時のアルミの弁当箱には、バンビの絵がついていたっけ。それをゴムバンドでとめて持っていってた。タッパー出現以前(B.T)の習慣だ。
それで急に思い出したのが、父が子供のときの話。時代はさかのぼって、昭和十年代。小学校のクラスメートが、お弁当箱の中にごはんしか入っていないのを持ってきていた。それはつまり「貧乏でおかずを持ってこられない」ということなのだけど、その子は一生懸命に口をとがらせて「だけどこの弁当箱は、お父さんが銀座に行って買ってきた最新式のもので、ごはんだけでもいい弁当箱なんだ!」と言い立てていたのだそう。みじめ感を糊塗しようとして、「特別な弁当箱自慢」を必死に展開、という、なんだか涙ぐましい話だ。でもうちの父はぼんやりした人だったらしく、「弁当箱そのものから味がしみ出てくる、っていう最新の物なのかな、すごいな!」と思っていたのだそうです。(文=目黒条