「結局は食べられない」

付箋が服にくっついているのに気づかずに、近所を歩き回ってしまった。郵便局で税金と健康保険料(上がった上がった!老人にやさしい私なので文句は言いませんが実はキツイ。)を支払ったあと、路上でふと見れば、ワンピースの胃のあたりに「結局は食べられない」と黒々と書いてあるポストイットが貼りついていた! 編集さんのT女史と先日お話し合いした内容〜つまり小説のストーリーの一部〜をメモってデスクの縁に貼っておいたのが、何かの拍子で誤って服に付着してしまったのだ。それにしても、付箋に書いてあることが数字とかならまだしも、「結局は食べられない」って記述は…他人が見たら、狂人かと思うだろう。しかも悪いことに、その付箋がセサミストリートビッグバードの絵がついたものだったので、余計いっちゃってる感じに見えただろうと思う。そして付着しているポジションも、いかにも窓口の人が着目しやすそうな場所だ。今から郵便局に行って、さっきのお兄ちゃんに「変だと思ったかもしれませんが、実はこういう事情でして…」と説明してきたいような気分だけど、そんなことをしたらますます危ない人に見えるに違いないし…。
編集美女Tさんはユニークな人で、代々木のドコモビルのことを「すごーく顔がいいのに、背が低い男性、みたいなバランス悪い感じがする」と言っていた。それを聞いてわたしは反射的に「それは○○○○さんみたい、ってこと?」と言ってしまった。反省。○○○○さん(←ある俳優さん)ごめんなさい。わたしはあなたを中傷するつもりではなくて、顔がよくてかっこいいという部分に反応しただけなんです。…と、名前を出してもいない人に向かって、ここで直接あやまってしまう小心かつ無意味な行動は何だ? とにかく、建築物をそんな風に擬人化してしまうTさんって、ほんとに面白いなあと感心してしまったのだった。わたしは見える物質より見えないものに想像力が働く派なので、そういう方向で考えられない。すごく興味ぶかく思いました。じゃあさっそく擬人化すると、建築物って一度建ってしまうと毎日着替えるとかもできず容易にイメチェンもできず、みんなに「バランス悪い」だのいろんなことを言われながら、猛暑の中でも雷雨の中でも一人ぼっちで黙って立ってなきゃいけなくて、孤独な存在ですね。(文=目黒条