きのうの雪が溶けて

 生まれ・育ちが東京なので、雪が降ると珍しく感じ、感嘆する。それで昨日は、まず「わーっ!」となり、それから何となくしみじみしていた。雪が降り積む光景というのは、なぜか青春っぽい記憶を喚起させる(若い頃、ウォークマンでドゥルッティコラム聞きながら、雪の中を歩いて泣いてたっけ、というようなセンチメンタルな思い出が蘇ったりとか)。しかし、今日の東京はキラキラと晴れ、昨日のフリージング状態から一転して温度もぬるみ、積もった雪は溶け、木々から、屋根から、ポタポタポタポタ、地上に人々の頭の上に、水滴となって降り注いでいた。まるでお天気雨のように。なんてすごい季節のイリュージョン! 自然現象がこうやって人々の心を凍りつかせたりウェットにしたり、というのは本当に素敵だ。わたしも雪になりたい!――って、わたしも大人になったのか、「雪を背景にドラマティックな人生を」とかではなく、自分が「雪の側になる」方向で考えてしまったのだった。なんだか人間離れした自意識を持つようになったのだろうか?(文=目黒条