ミリキタニの猫

 ユーロスペースでドキュメンタリー『ミリキタニの猫』。「三谷より、リキの入ったミリキタニ」という出来の悪い川柳を思いついている場合ではない、この日系人アーティストの生き方には本当に気合が入っている。アメリカ生まれだが広島で育ち、アメリカに戻ったら日系人強制収容所に入れられた――この壮絶な経験ゆえ、彼のアメリカという国家と第二次大戦への怒りは深い。深い怒りが、彼を抗議と表現に駆り立て続けてきた。ある時期から路上画家としてやっていくわけだけれど(そうなると単なるホームレスと識別困難な感じだ)、八十代という高齢で、ニューヨークという冬めちゃくちゃに寒い町でホームレスをやっていたなんて驚異的だ。それだけミリキタニさん、頑健で根性がすわっているのです。
 世の中には八十代でホームレスをやる人あり、もっと若いのに死んでしまう人あり。また、世の中には、路上にいるアーティストに軒先を貸してくれるレストラン経営者あり、社会保障局に勤める普通の人なのにアーティストに敬意を払ってくれる人もあり。人間の孤独と、限られた人生の時間における人と人との結びつきについて、非常に考えさせられた。「アメリカ人はルーザーに冷たい」という先入観をわたしたちはもっているが、どうしてどうして、この映画には、監督をはじめミリキタニの理解者になって献身的に(単なる慈善精神をはるかに越えて!)支えてくれる素晴らしいニューヨーカー達がたくさん登場し、わたしたちのつまらない先入観を打ち破ってくれる。74分でこれだけ感動させられる作品というのはめったにないので、是非見てみてください。(文=目黒条