愛より強い旅

 渋谷のシネ・アミューズで『愛より強い旅』(原題:Exile)を見てきた。去年のカンヌの最優秀監督賞受賞作。わたしは、海外放浪の旅に行く暇がないからせめて映画でエキゾチシズム満喫してやる!という程度の動機で空き時間に飛び込んだんだけど…ものすごく大当たりだった。ハリウッド映画を十本束にしてもかなわないぐらいの魅力がある作品だ。フランス人の若い男女(ともにアルジェリア出身の移民の子だけど、自分はフランス語しか喋れない)が、自らのルーツを求めてアルジェリアへの旅をする――あらすじはこれだけ。でもすごく「本物」の映画だった。アンダルシアやアルジェリアの風景もさることながら、フラメンコやスーフィーなどの音楽がすごい! ロマの人々や難民すれすれの人々と行動を共にしたりする無謀な旅のドラマツルギーもすごい! 文化への帰属意識が複雑な二人の心の屈折と、貧しいけど自分のことを不幸だと思ったことなどない人たちの生への情熱との、そのコントラストが鮮やか。都会で薄ーく生きている人は、このような作品を見て、たまに自分に揺さぶりをかけるとよいと思います。(文=目黒条