手の美術史

森村泰昌さんの新しいご著書『手の美術史』をお送りいただきました。名作絵画に登場する人間の「手」部分に着目し、「手」達が饒舌に語っているものを読み解こう、という刺激的な著作です。あたかも映画のクローズアップのように、手への「寄り」で切り取った名画は、まったく新しい視点でわたしたちを驚かせてくれます。
実は、これをいただく直前に、わたしは「人間の手にも水かきのような部分があって、その皮膚が目立つ人と目立たない人がいるはずだけど、人の手ばかりジロジロ見るわけにもいかないし、何か手のサンプル集みたいなのないかなあ…」とちょうど思っていたところだったので、この本をいただいて凄くびっくりしたのです。願ったり叶ったり、なんというシンクロニシティ! …しかし、「文章で描写するときのソースにしましょう」的なさもしい見方をするにはあまりに畏れ多い本だ、もっと高次元のものに接触するための本なんだ、とすぐにわかったので、あとはもう無心に鑑賞。
たとえば小説に関しては「読み方がわかりません」という人はあまりいなくて、単に最初から最後に向かってまっすぐ読んでいけばいいだけでしょ、と皆常識的に知っているのだけど、絵の場合は「どうやって鑑賞したらいいんだろう?」と見方に関して悩みがち。そこをやさしく「このテーマで見てみたら?」とヒントを与えてくださる森村先生のレッスンは、目をみはるような楽しさと、芸術的・哲学的な深さを、しっかりと両方持っています。(文=目黒条