アニー・リーボヴィッツ

 合間の時間を利用して(←言い訳多し!)ドキュメンタリー『アニー・リーボヴィッツ』をやっと見た。最初から最後まで本当に息をのむような、心の底から感動的な映画だった。アニー・リーボヴィッツの撮る写真がコマーシャル写真なのかアート写真なのかなどという問い自体を一瞬にして無意味化してしまうであろう、本当の意味での「仕事」の迫力が胸をうつ。表現を仕事にする人は、ものすごく勇気づけられるので絶対に見た方がいいです。そして、注意:スーザン・ソンタグに思い入れの強い人は必ず号泣します。要ハンカチ持参。
 ジョン・レノンが裸でヨーコにしがみついているあの有名な写真は、発表された当時、中学生だったわたしにとってはいまひとつ理解できないものだった。率直に言えば「おじさんが、男らしさをかなぐり捨てて幼児のように振舞っているのはなんと不気味なことか」と思ったのだった。でも今となっては、そのガキっぽい感想のなんと愚かなことよ、と思う。今完全に理解できるけど、たぶんヨーコさんは、異性を愛するのに母性愛の部分を使っていたのだろう。そういう変化球っぽい愛はしかし、伝統的な家族を尊重する社会では、きっと否定される。当時の、ジョン・ヨーコのそういう「フェミニンな革新性」に対するマッチョ側からの反動の空気が、国民的な反感にまで高まって、アメリカでのジョン・レノン狙撃という惨事が起こったのではないかと思った。その事件の直前にあのほとんど奇跡的な写真が生まれたということこそが、アニー・リーボヴィッツの仕事がほとんどシャーマン的な領域に達している、ということの証明だろう。(文=目黒条