●ishima

 時系列が狂ったポスティングなのですが、今年のはじめ、まだ寒い頃に劇作家のシェリー・クレイマーに「わたしは○島由紀夫が好き。ポール・シュレイダー監督の”Mi○hima-a Life in Four Chapters"という映画は最高だった」と言われ、「ああ、その映画は見てないです、なぜなら日本では三○由紀夫の遺族が許可しなかったので、公開もされなかったしビデオも売ってないんですよ」などと答えていた私。でも、その瞬間「なに言ってるんだろ私、アメリカのアマゾンあるじゃない!」と悔しくなり、だいぶ経った最近、思い出してアメリカのDVDを購入していた。しかし、その先がパソコン音痴の悲しさで、リージョンフリー化しようとして誤ったソフトを使用し、失敗、そしてわからないまま放置していた。
 それを、コンピューターリテラットのN尾さんに助けていただき、めでたくリージョナルコードを変えて鑑賞できました。N尾さんに感謝。
 これが大変に面白かった。85年に作られた作品で、その当時考えられる日本のスターを全部詰め込んだみたいな豪華キャスト、主演の○島役は緒方拳さん(実際の作家よりかっこいい)、あと沢田研二さんや横尾忠則さん(!大好き!)や三上博史さん(ものすごい美青年!でも、つるんとした美青年の若者時代より今の方がだんぜん素敵だと改めて思った)や李礼仙さんや、もう枚挙にいとまがないほど、とにかくオールスター状態。で、それら名優たちをフィーチャーしつつ、作家の実人生を語る部分はリアリズム風、虚構である小説の再現部分はどこかアングラ演劇風にキッチュな装置の中で、と色分けがされた面白い構成で、四つに分析した作家の人生を語る。80年代っぽい実験性に満ちた構成だけれど、今見ても新鮮な刺激があり、フィリップ・グラスの音楽とも見事にマッチしていて、たいへん痛快だった。エピソードのひとつひとつは、伝記的事実に沿っていて正確無比。予想していたほど心理学的すぎることもなく、とても楽しめた。これが日本でおおっぴらに見られないのは大変な損失だと思った。(文=目黒条