拳闘

 この間、Nさんに又借りしたDVDで『ザ・ボクサー』というアイルランドを舞台にしたダニエル・デイ・ルイス主演のボクシング映画を見てから、私の心の中ではk田家なんかと全然違うパラダイムでの「ボクシング・ブーム」の風がざわざわと吹き始めていた。ヘミングウェイは確か「この世の中で命を賭けて戦っているのはボクサーと闘牛士だけだ」と言ったんだったと思う(←記憶だのみの不確かな引用ですが)。命を賭けて戦ったことのない者は、ボクサーの人生については絶対に何も言う資格がない。ボクシングの試合は、はたから見ていると凄いドラマツルギーだと思うけど、命を賭けてない者がそういう物言いをしたところで軽ちょう浮薄に感じられてしまうだけだ。「闘う」ということの本質的な何かがそこにはあると思うのだが、それをペラペラと言葉で分析するのは愚かなこと。わたしたちはただ感じることしかできない。
 そんなことをあれこれ思っていた時、驚くようなタイミングで写真家の富田浩二さんの写真展「拳闘」のご案内をいただいたので、ワクワクしながらUP FIELD GALLERYに伺った。富田さんは元ボクサーで、そういう専門的な視点から、ボクシングを深く理解している人にしか撮れない、ボクサーたちの写真を撮り続けていらっしゃいます。報道写真とはまったく違う芸術的な方法論で、試合中の驚くような表情や、リングの外の劇的な一瞬をとらえた写真の数々…本当に心を揺さぶられます。わたしはギャラリーを出てからも興奮さめやらず、すごくいろんなことを考えました。素晴らしい写真展です。18日(日)までやっていますので、是非是非、この特別な世界に出会ってみてください。(文=目黒条