ヘンリー・ダーガー

 原美術館の「ヘンリー・ダーガー」展を見た。少女を描いたアウトサイダーアート、と簡単にまとめてしまうとあまりに申し訳ないような、膨大な物語と膨大な絵。そのほんの一部が展示されているだけでも、圧倒的な空想世界に胸うたれる。誰に依頼されたんでもなく、発表するという意図も一切なく、このようなものを綿綿と描き続けるという行為は、常人にはできないことだ。だからこそ「キチガイと天才は紙一重」のうちの前者に分類されてしまうんだろうけど、見ているうち、そんなカテゴライズはどうでもいい、この緻密な空想に驚くことが全てだ、と思えてくる。わたしも子供の頃に、少女たちの物語をいつもいつも果てしなく空想していたが、あまりにもそれにそっくりな世界なので涙が出そうになってしまった。若手の美術作品が高値で売れたというニュースが流れる今、いっぽうではこんな「純粋芸術」の世界をかいま見ることができる。このことを人々はどうとらえるのだろう。(文=目黒条