約束の旅路

 ラデュ・ミヘイレアニュ監督『約束の旅路』(原題Va, vis et deviens)を拝見。エチオピアユダヤ人(ソロモン王とシバの女王の末裔として大昔から約束の地を夢みてきたファラシャという人たち)をスーダンの難民キャンプからイスラエルに移送する「モーセ作戦」というのが1984年に行われた際、「自称ユダヤ人」としてイスラエルに行った少年の話。これはまったくイスラエルだけのローカルな話題などではなく、今考えるべきテーマをがっちり含んだ重要な映画だと思った。少年が自分のアイデンティティについて悩みながら成長していく物語は、フランスのみならず、ヨーロッパに数多くいる移民二世たちの激しい共感を呼び起こしたのではないだろうか。いや、移民だけではない、ずっと自分の国に根ざして暮らしているつもりの人々にとっても誰にとっても、グローバリズム以降・ネット以降「民族のアイデンティティ」などというものが極めて希薄になっている昨今、デラシネ問題は身に迫る問題なのではないかと思う。もちろん、イスラエル問題に関してもいろいろ考えさせられた。(文=目黒条