劇作は愉し

 斉藤憐『劇作は愉し』を読んでいる。「戯曲の書き方」というテーマで、おびただしい数の戯曲を引用しつつ作劇術というものを探る大著。主に現代戯曲を、そして日本の劇作家の作品を多く扱っている、という点で、まさしく日本で今必要とされているテキストだと思った。(ギリシア悲劇や三一致の法則から始める壮大なテキストも大事だとは思うのだが、こちらの方がより現代の現実に即している。)
 わたしは幸いにして、子供の頃に親に連れていかれて新劇も見ているし、アングラのしっぽにも触れ、勃興期の小劇場にも入りびたり、また高校の演劇部の部室にあった戯曲は田中千禾夫から安部公房までひととおり読み…などと、さまざまなジャンルの演劇にふれられる時代と環境で育つことができたので、この本に出てくる戯曲には割となじみがある。しかし、それらは自分の中に埋まっている断片的な記憶にすぎず、有機的に結合している感じではなかった。この本を読むと、断片がつながり、ある大波のように考え方が立ち上がってくる感じで、大変に刺激的だ。大インテリ斉藤憐さんの思考法を伝授していただいているようで、ありがたいことこの上ない。『上海バンスキング』を見た時に高校生だったわたしも、今や「わたしなど若輩者でして…」と言っていられる年でもなくなってきたので、もっと勉強してはっきりと自分の方向に歩いていかねばな、と思った。(文=目黒条