エンジェルス・イン・アメリカ

 マイク・ニコルズ監督のTVムービー『Angels in America』がDVDで出てるってことは前から知っていたが、ビデオ屋に行ってもいつもレンタル中でなかなか見られなかった。きのう、たまたまパート3だけが店にあったので、迷った末、内容を知り尽くしているのでまあパート3から見てもいいか、と借りて見た。
 結論…クローサーの時と同じで、舞台でやった芝居を映画にするとやはりがっかりだ。誰かが一生懸命作ったプロダクションに対し、三分の一しか見てない人間が否定的なことを言う資格などないと思うんだけど、とりあえずそういう感想を呟かずにいられなかった。この映像版、役者は皆いいし、何が悪いのかよくわからないんだけど、なぜだろう、何だか拡散してしまう感じ…。たぶん、暗い劇場に閉じ込められて、生身の役者と向き合って、ものすごい集中力で台詞を受け止める――という「芝居」の形態に合わせて書かれた台詞を、「映像」というメディアに移植しても調和しない、ということが原因だろう。
 ただ、そもそも私の人生を変えるほどの芝居であったので、やっぱりいい作品だなと再認識もした。「社交の席で、宗教と政治とセックスの話をしてはいけない」とよく言うが、そのタブーそのものを全部作品にぶちこみ、性と人種と政治的立場とのポリティクスに真っ向から切り込むなんてことを(こういう総花的な形で)やった人はトニー・クシュナー以前にいなかったと思う。エイズ時代のゲイ・リベレーションという要素も多分にあったし、また「赤狩り」「ユダヤアメリカ人」という大テーマも入っていた(ここまでで日本の若者などにはほとんど理解不能かもしれないが…)。「こんな風に芝居を書いていいんだ!」とみんなを瞠目させ、劇作家たちに勇気を与え、その後の演劇界に強い影響を与えたのがこの作品だと思う。
 結局のところ好きな作品ではあるので、パート1、2も文句言いながら見てしまうんだと思います。(文=目黒条