ヒストリー・オブ・バイオレンス

 クローネンバーグ監督の映画なら何でも死ぬほど大好き、というわたしなので、最初から嫌いであろうはずがなかったのだが『ヒストリー・オブ・バイオンス』を見て予想以上に震撼! まさにこういう映画が見たかった!的の中心を射抜かれたような気持ちだ。こんな素晴らしい映画が見られるなんて、なんとなんと幸せなのだろう、と心の底から思った。わたしにとってこれ以上のものは今年はもう出ないだろうし、365日毎日こればっかり見続けてもいいぐらい好きだ。
 市民社会vsマフィアという構図を、こんなに鮮やかに、こんなに深く描いた映画をわたしは今までに見たことがない。また、小市民をやることが似合わない人が小市民をやろうとするといかに家族が巻き添えになるか、ということがあまりにも身に覚えがありすぎて(自分の成育歴を省みて)考え込んでしまった。クローネンバーグの気持ちが本当に隅から隅までわかる気がする(そこまで言うと図々しい)。デヴィッド・リンチが『ストレイト・ストーリー』で大人の貫禄を見せた時のように、デヴィッド・クローネンバーグもまた、こういう芸術的かつ映画的な偉業をなしとげたのだ。市民社会とその外側というテーマに関してクローネンバーグから貴重なものを受け取らせていただき、感謝の気持ちでいっぱいだ。ハリウッド映画にさんざん失望していた皆さん、北米にだってこんな素晴らしい映画人がいるんだと思うと嬉しくなりますね。絶賛しても絶賛しても、まだ絶賛し足りないクローネンバーグ監督。(文=目黒条