ミュンヘン

 『ミュンヘン』を観てきた。わたしは別にスピルバーグが大好きなわけではない(この間、トム・クルーズの出てくる変な映画にがっかりしたばかりだし)けれど、脚本がトニー・クシュナーだから見なければ!という演劇寄りな動機で見に行ったのだ。たぶん、このような理由で見に行く人は日本では全国で五人以下だと思うが…。
 で、困ったなというのが正直な感想。見終わっても結局、別にイスラエルに移住しようと思ったこともないしユダヤ教も信じてないというようなユダヤアメリカ人たちが何を考えてこの映画を作ったのかがよく分からなかったのだ。「民族的対立で人と人が殺しあっても無意味ですね」というヒューマニズムで一応しめくくっているような感じなんだけど。まあ、誰にも怒られない映画に仕立てようとするとこの辺りに着地するしかないのでしょう。商業映画としての「見せる」条件を全部クリアして、ある程度見る価値のある状態に仕上がったものだとは思う。でも、結局誰の本音もわからなかったなあ、という漠然とした気持ちになって帰ってきた。早くミッションを終えて妻と生まれたての赤ちゃんに会いたいという、その一心で何人も殺す…っていう設定にも無理があるのではないだろうか。(これに比べたら、妻子とちまちま暮らす小市民的生活なんてできねえや!とヤクザの抗争に戻っていく『竜二』の方がまだリアリティがあるような気がした。)要するに、シオニストにやさしいアメリカらしいアメリカン・エンターテインメント映画なんだな。しょせんスピルバーグスピルバーグだ、ということをいやというほど思い知った。ポランスキーを選ばなかった自分をちょっと責めた。(文=目黒条