Jの悲劇

 邦題『Jの悲劇』(!)、原題『Enduring Love』という映画をきのう気合で見に行ってきた。非常にイギリスの香り濃厚で、思慮分別に富んだ大人の映画だった。知的にも感覚的にも、右脳も左脳も全部刺激されてたくさんのことを考えさせてもらい、かなり満足した。気球の事故にでくわして、人を助けられなかった大学教授が、自分のせいではないかという罪悪感から精神的に追い込まれていく…また彼を追い込むストーカー…というような、だいたいそういう話だけど、是非皆さんに見ていただきたいので、これ以上ストーリーについては書かないことにする。
 結局、redumption(贖罪)という観念と、「愛の不在」という教授の自説と、ストーカー的な誤った狂気の愛、というのが一緒くたに鍋で煮られてバッドアルケミーを引き起こす、というのがやりたかったのだろう。そこまではよく分かるし、何ひねりもある大変面白いアイデアだと思う。ただ、やっぱり小説をちゃんと読んでみないと細部までわからないなあ、という欲求不満はかすかに残る。シンボリズムがやや鼻につくところもなくはない。でも88%ぐらいは満足できる映画だった。役者も皆すばらしい。見る際に注意していただきたいのは、ハリウッド製のサスペンスのようなものを期待しないでほしい、ということ。これ、あくまで文学的な作品ですから。…主人公が「ジョー」で「愛を信じない」せいでこんなことになってしまって、とわたしにとって身につまされる映画でもあった。気をつけよう。(文=目黒条